仏教の慈悲の心で築く豊かな親子関係
親子関係は、子供の成長と共に変化し続ける特別な絆です。親は子供を愛し、導く一方で、子供は親に対して期待や反発を抱くこともあります。
このダイナミックな関係性の中で、時には摩擦や誤解が生じることがあります。そんな時、仏教の「慈悲の心」が親子関係をどう豊かにし、強化し改善するのかをご案内します。
目次
親子関係の脆さと慈悲の必要性
親子関係は、親と子供の間で築かれる長期的な関係です。その過程で、思春期の反抗、親の過保護、コミュニケーションの不足など、さまざまな問題が浮上することがあります。特に、子供の自立心が芽生える思春期には、親子関係の脆さが顕著に表れます。また、些細なすれ違いで親子関係が大きく悪化する事があります。
一つ、些細なすれ違いにより親子関係の脆さが顕著に表れた例について話をさせていただきます。
中学生のAさんは、半年後に高校受験を控えていましたが最近学校の成績が思うように上がらずイライラしていました。Aさんのお母さんは、Aさんが勉強に集中できるように夜食を作ったり、勉強に参考となる教材を買ってきたり、勉強中にリラックスできる音楽や動画を紹介したりしていました。
また、ユウタが勉強への意欲を高められるように勉強法についてアドバイスをしたり、毎日のように「もっと頑張らないと」とAさんを発奮していました。
そんなある日、学校で期末試験がありました。しかし、Aさんは残念ながら思った程試験の成績は良くありませんでした。学校の先生からも、「このままでは志望校を変更した方が良いかもしれないよ。」と言われて、Aさんはひどく落ち込みました。
Aさんは家に帰り、期末試験の結果をお母さんに伝えました。お母さんは、「勉強が足りなかったのよ、もっと勉強すれば志望校に受かるわよ、頑張って!」とAさんに伝えました。
Aさんは、それ以後お母さんと口をあまり聞かなくなりました。また、お母さんが何か色々Aさんのためにアドバイスした事や行動した事に対して、素っ気ない態度をとるようになりました。
お母さんはAさんが何故素っ気ない自分と距離をとったような態度をとるのか良く分かりませんでした。
そんなある日、Aさんの学校で3者面談がありました。その場で、先生はAさんとお母さんに向けて「このままでは、志望校は受かるのは難しいと思います。志望校を変える事も検討された方が良いと思います。」と話をしました。
3者面談からの帰り道、お母さんはAさんに「もっと、勉強を頑張らないとダメよ!、これは貴方のためなのよ!」と少し厳しい口調でAさんに伝えました。
Aさんは、「もう、お母さんと話したくない。ほっといて・・。」と言い出し、家に帰ると部屋に閉じこもってしまいました。以後、お母さんがどんなにAさんの部屋に向けて話しかけてもAさんが答える事はありませんでした。
お母さんは、Aさんとの関係が取り返しがつかない状況になってしまった事を後悔しました。どうすれば、Aさんとお母さんの関係性は崩れた原因はなんだったんでしょうか。
親子の関係性が壊れた原因
Aさんとお母さんの関係性が崩れた原因は、複数考えられますが大きく分けると下記3つに分類できると考えれます。
- コミュニケーションの一方通行
- お母さんのアドバイスや行動が一方的で、Aさんの気持ちや意見を十分に聞く機会がなかった。また、お母さんの言葉や行動が、Aさんにはプレッシャーとして受け取られ、励ましの意図が逆効果になってしまった。
- お母さんからAさんに対する感情の共感不足
- Aさんが試験の結果に対して感じていた落ち込みや不安に対して、お母さんが十分に共感を示せなかった。
結局、お母さんはAさんの立場にたってよりそう事をあまりせずに、自分がAさんのためになると思った事をAさんにしたわけです。それは、Aさんのためを思ったお母さんの言動でした。しかし、Aさんから見るとそれはお母さんの気持ちの押し付けに他ならなかったわけです。お母さんのAさんを思った行動は、独りよがりなものになってしまったわけです。
Aさんとお母さんのように、少しのすれ違いでとんでもない関係性の悪化に繋がる親子関係の話は枚挙にいとまありません。また、誰にでも起こりうることです。
こうした些細なすれ違いによる、人間関係の悪化を防ぐためには、互いへの思いやりと理解が欠かせません。ここで重要となるのが、仏教の「慈悲の心」です。
仏教における「慈悲」とは
仏教における「慈悲」とは、他者の幸福を願い、苦しみを取り除こうとする心のことです。慈(じ)は他者の幸福を願う心、悲(ひ)は他者の苦しみを取り除こうとする心を意味します。この慈悲の心を親子関係に応用することで、お互いの絆はさらに深まります。
親子関係を良好にする「慈悲の心」の啓発方法
- 傾聴の姿勢を持つ
- 子供が話したいことがある時、まずは親がしっかりと耳を傾けることが大切です。例えば、学校での出来事や友人関係について話を聞くことで、子供の気持ちを理解しやすくなります。子供が話している間は、スマホやテレビを消し、全身全霊で話を聞く姿勢を見せましょう。
- 感情の共感と表現
- 子供が悲しんでいる時は「悲しいんだね」、嬉しい時は「嬉しそうだね」と言葉で共感を示すことが重要です。感情を言葉にすることで、子供は自分の気持ちが理解されていると感じ、安心します。また、親自身の感情も適度に表現することで、互いに理解が深まります。
- 肯定的なフィードバックを与える
- 子供が何かに挑戦したり、努力した時には、その努力を認め、褒めることが大切です。例えば、テストで良い点数を取れなかったとしても、「一生懸命勉強していたね、その努力は素晴らしいよ」と肯定的なフィードバックを与えることで、子供の自尊心を育むことができます。
慈悲の心を反映した親子関係を良好にする行動例
- 日常生活での思いやり
- 子供が学校から疲れて帰宅した時、親が「今日はどうだった?」と優しく声をかけ、温かい飲み物を用意する。
- 休日に一緒に子供の好きなゲームやアクティビティを楽しむ時間を設ける。
- 子供の好きな食べ物を一緒に作ることで、親子の絆を深める。
- コミュニケーションの改善
- 親子でお互いの気持ちを素直に話し合う時間を作る。例えば、学校での出来事や友人関係について率直に話し合う。
- 週に一度、親子の時間を設け、仕事や学校の話から離れた時間を共有する。これにより、お互いのコミュニケーションが深まり、関係がより良好になる。
- 子供が悩みを話した時は、一度冷静になり、子供の立場を理解しようとする。
- 感謝の気持ちを忘れない
- 子供が手伝いをしてくれた時や良い成績を取った時など、感謝の気持ちを言葉で伝える。「いつも助けてくれてありがとう」と感謝を示す。
- 子供の誕生日や記念日に、特別なイベントやプレゼントを用意し、感謝の気持ちを伝える。
- 感謝の気持ちを定期的に手紙やメモで伝え合うことで、親子の絆を強固にする。
まとめ
仏教の慈悲の心は、親子関係をより豊かで深いものにするための強力なツールです。相手を思いやり、理解し、共感することで、親子関係は驚くほど良くなります。親子係改善の一助になればと思い、参考までに話をさせていただきました。少しでも、今日の話があなたの役に立つと嬉しいです。
合掌
著者:釋 兼高(しゃく けんこう)浄土真宗本願寺派 順教寺 副住職
1980年生まれ。2002年にアメリカの大学を卒業し、2007年に大学院を修了。2008年には得道し、僧侶の道を志す。その後、社会経験やビジネスの知見を深める上で人材育成系コンサルティング会社に就職し、13年間勤め営業経験や講師経験やコンサル経験を積む。2021年に退職し、家業である寺院を継ぐために入寺。
日々、仏の道に精進しながら浄土真宗本願寺派の僧侶としての道を歩む。これまでの職務経験を通じて培ったスキルや知識を活かし、分かりやすく仏教や浄土真宗本の教えを伝えるために「生活に役立つ仏教の教え」、墓地・永代供養墓の管理者の視点から「浄土真宗僧侶が伝えたい墓地・納骨堂選びの話し」のブログやお寺を身近に感じてもらうために、「若院(じゃくいん)のつぶやき」の情報発信を行う。